発言する保護者ネットワークfrom大阪が、大阪市と大阪市教委に要請書を提出した際に、
同時に出された住友教授のコメントは以下のとおりです。




 
「個別指導教室(仮称)」についてのコメント


2014年6月17日 
京都精華大学人文学部教授 住友 剛
  



 大阪市教育委員会(以後「市教委」と略)が検討している「個別指導教室(仮称)」に関して、私も参加している発言する保護者ネットワークfrom大阪 が要請書を発表するにあたり、教育学研究者の立場から以下のとおり意見を述べさせていただきます。なお、以下の見解は同ネットワークの公式見解ではなく、あくまで参考意見としてコメントするものです。

 私自身は、二年前に成立した大阪市教育行政基本条例及び大阪市立学校活性化条例には批判的見解を有していますが、今回の「個別指導教室(仮称)」は、これらの条例からも逸脱しているという問題点があります。

 まず、大阪市教育行政基本条例(以後「基本条例」と略)では、第1条の目的を、「本市の教育行政に関し基本となる事項を定めることにより、市長及び教育委員会が、子ども、保護者等の市民の意向を斟酌しつつ、相互に連携及び協力を行うとともに、それぞれの役割と責任を果たし、もって人格の完成並びに地域及び社会の形成者たる市民の育成を目指す教育の振興に資すること」と定めています。今回、発言する保護者ネットワークが、新聞報道などで伝えられた「個別指導教室(仮称)」に関して、市教委に対して意見を述べることは、保護者の立場からこの第1条の目的をふまえ、その役割・責任を果すものといえます。

 また、基本条例第5条第2項では、「本市は子どもの最善の利益を実現するために、市民の意向を的確に把握し、教育行政に適切に反映させるよう努めなければならない」と定めています。したがって、「個別指導教室(仮称)」の実施にあたっては、それが「子どもの最善の利益」の実現に沿うものなのかを検討する作業、および、市民の意向にも沿うものなのか、市教委として適切に把握する作業を行わなければなりません。

 とりわけ、たとえ何らかの「問題」行動があったにせよ、「個別指導教室(仮称)」での指導の前提には、当該校での出席停止措置という形で本人にとって不利益な対応を行うことが想定されています。とするならば、出席停止措置及び「個別指導教室(仮称)」での対応を行うにあたっては、それがどのような意味・内容においてその措置をされる子どもにとって「最善」であるのか、また、それで生じた不利益に対してどのような補償が行われてしかるべきなのか、慎重な検討が必要かと思われます。

 また、市民の意向の把握にあたっても、このような「個別指導教室(仮称)」の実施を求める市民の側の意向だけでなく、それが抱える危険性などに懸念を表明する市民の意向も適切に聴取しなければいけません。さらに、「個別指導教室(仮称)」の実施に際して市民の意向を把握する場合にも、それがもたらすメリット・デメリットの双方を市教委側から最初から示して行うなど、多様な観点から意見を出しやすくする工夫が求められるところです。

 その一方で、「個別指導教室(仮称)」の実施の前提に、大阪市内の公立学校における子どもたちの「荒れ」があるのならば、これもまた、基本条例第8条第1項〜第3項の条文に照らして、はたしてこの数年の大阪市の教育施策が適切であったのかどうかが問われてしかるべきでしょう。「個別指導教室(仮称)」の設置よりも前に、基本条例第8条第1項〜第3項に関連した施策の不備、不十分さを是正して、子どもたちの「荒れ」を根っこから食い止めていくという道筋も考えられるからです。

 たとえば基本条例第8条第1項には、「保護者等の意向を斟酌しつつ、子どもにとって将来にわたって必要となる力をはぐくんでいくため」に、教育委員会が「学校教育の円滑かつ継続的な実施のための支援」や「教職員の能力、適性等の向上を図るための研修その他必要な施策」の充実を図らなければならないとあります。この「学校教育の円滑かつ継続的な実施のための支援」には、大阪市内の公立学校での教員不足や多忙化の解消も含まれるのではないか。人員配置や勤務環境の改善を通して、子どもたちと教員がじっくりと、ゆとりをもってかかわることができるようにすることによって、子どもたちの「荒れ」を防ぐという道筋もあるのではないか。あるいは、「教職員の能力、適性等の向上を図るための研修」には、「荒れ」た状態にある子どもへの理解や対応スキルの向上を図る研修も含まれるはずです。そのような研修機会を、市教委として準備することがこの間、できてきたのかどうか。こういったことが、「個別指導教室(仮称)」の設置以前に問われてしかるべきではないのか、と考えます。

 あるいは、我が子の「荒れ」に悩む保護者に対しては、基本条例第8条第2項の趣旨に即して、「家庭教育に関する学習の機会及び情報の提供」等による支援という観点から、たとえば保護者の子育て学習の機会の整備、児童相談所(こども相談センター)や各区家庭児童相談室と学校との連携促進といった取り組みが考えられます。

 そして、家庭環境に課題があって「荒れ」が生じていると考えられる子どもについては、その子ども及び家庭の両方を支援する取り組みを、基本条例第8条第3項の趣旨に即して、学校外の子どもに関連する施設の設置・運営等による教育活動の振興を通じて行うことも必要でしょう。たとえばかつて大阪市内には12カ所の市立青少年会館(社会教育施設)があり、そこでは学習・スポーツ・文化活動を通じて、地元のさまざまな課題を有する子どもたちを、市職員と地元の人々、NPOなどの連携により、公的施設で支えてきた取り組みがありました。この会館は2007年度の設置条例の廃止により事業・施設がなくなりましたが、このような取り組みの復活も考えられてしかるべきでしょう。また、現在、大阪市内各地で実施されている「子どもの家」の取り組みのように、生活困難な子どもと家庭を支援する団体・施設を積極的に市として応援する取り組みも求められるところです。

 さらに、大阪市立学校活性化条例(以後「学校活性化条例」と略)第8条にもとづき、「保護者等との連携及び協力並びに学校の運営への参加の促進並びに児童及び生徒の意見並びに保護者等の意向の反映」のために、大阪市内の公立学校に「学校協議会」が置かれるはずです。この各校の学校協議会において学校と保護者・地域住民等が子どもたちの「荒れ」の現状認識を共有し、その状況をよりよくするためにプランを立て、具体的に協力・連携する方法を模索する道もあるはずです。また、市教委はこのような地道な学校協議会の努力を評価し、積極的に人員配置や財政的な面から支援していくことが求められているのではないかと考えます。

 特に、この各校の学校協議会が中心となって、「荒れ」の渦中にいる子どもたちやその周囲にいる子どもたちの意見を聴き、その子どもたちの願いを共に受け止め、具体的にプランを練りながら、子どもとともに学校の在り方を改善していくという方向性もあるはずです。その子どもたちの「荒れ」のなかに、今までの大阪市の教育施策への不満や学校の在り方に対する疑問が含まれているのであれば、学校協議会こそ、その子どもたちの思いを受け止め、適切に学校の在り方を変えていく役割を担うべきでしょう。

 そして、基本条例前文に「子どもについて、個人としての尊厳を重んじ、その意見を尊重する」と、子どもの権利条約(児童の権利に関する条約)第12条をふまえた言葉が盛り込まれている以上は、市教委及び各学校において、「荒れ」の渦中に居る子どもたちを含めたあらゆる子どもたちの意見を聴き、その意見を尊重した学校運営が行われなければならないでしょう。

 以上のように、大阪市内の公立学校における子どもの「荒れ」への対応に関しては、「個別指導教室(仮称)」の実施以前に、「そもそも大阪市教育行政基本条例及び大阪市立学校活性化条例の趣旨に従って、市教委及び各学校にはどのような取り組みが求められているのか?」という観点からの議論が必要であると考えます。子どもの最善の利益実現のために、保護者と学校・市教委などが学校協議会の場などを通じて互いに連携・協力する道筋を求めることが大切です。

 このたび発表された、発言する保護者ネットワークfrom大阪の意見表明は、一人一人の子どもに寄りそい、「問題児」の抽出や排除ではなく、ともに同じ社会で生きる仲間として成長していける教育のあり方を求めています。こうした保護者の願いが実現することを願っています。

以上  


   
   
  
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